-PBインタビュー・コレクション-

丸山 茂樹

アメリカ・ゴルフ・ツアーに挑戦する男。

佐渡充高=インタビュー・文/カルロス・マルケス=写真
Interview & text by Mitsutaka Sado/Photographs by Carlos Marques

2000年から米ツアーに本格的に参戦している丸山茂樹は、4月23日のグリーンズボロ・クライスラー・クラシックで8位に入賞し、米ツアー生涯獲得賞金が100万ドルを超えた。日本選手では尾崎直道に続く二人目の快挙だが、直道が足 かけ13年・98試合かかったのに対し、丸山は7年・36試合というスピード記録 だった。 今では、USPGAの新しい顔として人気急上昇中だが、自分におごることなく本場のグリーンで心技体にさらなる磨きをかけている。2001年のシード権も確実にし、転戦中の彼に新たなる挑戦の可能性、USPGAの生活について語ってもらった。

PLAYBOY(以下PB)今年からアメリカの PGAツアーに本格参戦して大活躍ですが、いままでの自分をどう評価していますか?
<丸山>正直言って少し驚いていますね(笑)。当初の目標はブライアン・ワッツ選手が昨年稼いだ賞金50ー 60万ドルで、それだと順位も60位ぐらいをキープでき、それで充分と思っていました。でも、その数字も見えてきているので、今年に関しては、自分でも驚いていますね。
<PB>その要因は何ですか?
<丸山>ううん、やっぱり去年からやってきたトレーニ ングもそうだと思いますし、あとは、アメリカのツアーでやるんだという気持ちが高まったからでしょう。やはりUSPGAの初戦のソニー・オープンで9位に入れたのが大きかったです。何かいい感じで入れたな、という感じで、その後の試合も順調で、これなら20位以内はキープできそうだ、と欲張らずにそんな気分になれたんです。
<PB>そういえば、世界マッチプレイ選手権やマスターズなどの出場権のかかった、いわゆるキメの土壇場の試合で良い成績が出てますね。
<丸山>昔の高校時代と同じで、赤点取った後の追試で良い成績をいつも取ってい たんです。僕はどうもせっぱ詰まらないと駄目な性格みたいですね(笑)。ジュ ニアの頃も中学2年の時は全部2位で、中3では絶対に全部優勝するぞ、と思うとけっこう優勝したりして。意外と余裕ができると中弛みする悪い癖があるんで す。高校の時も3年で殆ど大きな試合を勝てたし、大学でも最後の4年生の時にグランドスラムを決めています。ノルマみたいなのが自分に課せられると、集中力が凄くなって燃えてくるタイプなんですよ。
<PB>アメリカでまだ数カ月しか戦っていないのに、これまでの成績は立派ですね。今年からレギュラー・メンバーで参戦して、数年前からのスポット参加がある程度の目安になっていたのですか?
<丸山>絶好調ならベスト・ファイブには入れるだろうと思っていました。優勝するには経験やメンタル・トレーニングが必要だと感じていましたが・・。97年にアメリカで試合に出場し、その時でも15位ぐらいなら可能かなという気はありまし たが、トップテンに入るには何かが不足している、と思っていました。ベルサウス・クラシックで初のトップテン入りし、ワールド・シリーズで6位に入り、こんな感じなら何かを見つければトップ5は可能だというのが見えてきました。
<PB>10位、5位と上位入賞がだんだん見えてきたのは、何が不足していて、何をプラスしたことで良い成果をあげられたのですか?
<丸山>先ず一番足りなかった部分は、確実にプレッシャーがかかった時のティショット、要するに絶対にボギーを打ってはいけないホールでのティショットです。良くなったのは小技の組み合わせかな。昔は無鉄砲にサンドウェッジばかり持って、スピンをバンバンかけて突込んでいたんですが、ピッチ・エンド・ランもできるようになったし、以前はラフからはフェイスを開いたロブショットが主流でしたが、今はソフト、ハード、あるいはフェースを閉じるショットまで覚えました。こっちでは多彩なショットが必要なんです。それとアイアンショットも いつもピンをデッドに狙うのではなく、状況に応じてはセンター狙いに徹することも覚えました。偉そうに言えば少しは冷静にゴルフができるようになったということです。

<PB>そういえば、深いラフに打ち込んでしまった時は、横に出したりして、硬くスコアをまとめていますね。
<丸山>最近、やっと一打の重みを感じられる様になったからです。昔だったら、ボールを横に出すなんて、僕のゴルフの歴史の中で考えられないことでした。ど んな状況でも最低でもパー、あわよくばバーディを考えていましたから。その結果が多叩きになってしまい、せっかくのチャンスを失ったものです。今でも調子の悪い時は、冷静さを失うことがあるので、その辺が今後の課題でしょう。
<PB>調子が良い日は、スタート前から何か感じるものがあるんですか?
<丸山>ありますね。何となく体のバランスの良さを練習場から感じられる時ですね。そんな日は、自信満々でゴルフができるんです。アメリカに来て感じたことですが、体力的な部分が足りないなあということです。精神面が疲れると、体も疲 れてくるのが日本人の悪いとこですが、アメリカの選手はみんなタフです。マスターズ優勝した選手が、次の週のトーナメントで優勝争いをしているんですから。で、僕は思ったんです、あまり釈子定規にならず、気楽に行こうと。そうし たら色々なものが見えてきましたね。
<PB>USPGAツアーはゴルフのフィールドとしては最高のものですから、連戦していると体力だけでなく、気持ちも萎えてくると思うんですが、どうやって試合ごとに気持ちを奮い立たせているのですか?
<丸山>残念ながら、今の段階では明確なことは言えません。自分でも誰かに教わりたい心境ですよ(笑)。ただひとつ真面目に思うことは、こっちでスウィング・チェックをしてくれる人がいないと厳しくなって来たかな、という感じです。僕が信じことができて、僕のスウィングを見てくれる人が見つかれば、心の支えになると思いますから。やっぱりタイガー・ウッズなんかが上手くいているのも、常にブッチー・ハーモンがツアーに同行し、適切なアドバイスをしてるからな んですよ。選手にとっては言葉ひとつが大切な時があるんです。自分が信用して る人が調子の悪いときに”いやスウィングは全然悪くないよ、ちょっと考え過ぎ だろう、思いっきり振り抜けばいいんだよ”と言ってくれるのと、そうでない人 が同じことをアドバイスするのでは自分自身の受止め方が全然違うんですよ。アメリカでツアーを転戦していると、そんな心の安らぎが必要なんです。
<PB>確かにそうですね。
<丸山>アーニー・エルスなんかも専属のコーチがいて、マスターズの前の週に見てもらっていたようです。コーチが来る前は、練習場で彼のスウィングを見たんですけど、もうボロボロなんです。僕が見てそう思った程ですから。それがコー チのレッド・ベターがアドバイスした途端に、ストレート・ボールを打ち出して、試合が終わって見れば、マスターズで単独2位でしたから。僕も本当に親父に電話して“来て欲しいよ”ってマジで言いましたよ(笑)。自分を見てくれる人がいるということは、強力なビタミン剤、いや、点滴みたいなモノですから。
<PB>そういえば、2位になったビュイックの時はお父さんがトーナメントにいらしていましたね。
<丸山>ええ。あの時は横尾要選手と練習ラウンドしたんですが、全然調子が良くなかったんです。要は曲がらないし、飛んでましたから“ああ羨ましい”と思ってました。僕は曲がってましたから、元気なかったんです。そしたら親父が僕に“そんな曲がりは許容範囲だよ。フェアウェイの幅は何ヤードあるか知ってるの
か”って言うんです。親父は“フェアウェイの幅は50ヤード位あるんだよ、狭い 所でも30ヤードだよ。考えてみろ、お前、曲がるといったって、年がら年中30−40ヤードも曲がってないだろう。飛ぶか飛ばないかは別として、フェアウェイに ボールがあれば、隅だろうが端だろうが何とかなるものだ”この一言でなんか凄く気分が楽になったんです。途端に、コースが広く使える様になってきて、本番になったら、スパンスパンとショットまでが決まり始めたのです。
<PB>そうだったんですか。
<丸山>だから最終組みでプレイした決勝ラウンドも親父は“最初は力むのはしょうがない。いきなり最終組みでプレイさせられて冷静にできる方がおかしいんだ。これくらいでスコア(三日目)を収めたんだから、良しとしなくては”と言うんです。お陰で、最終日もリラックスでき、最後まで崩れることなく、2位に入賞できました。アメリカ・ツアーではこんなアドバイスが大切必要なんです。
<PB>ところで、筋力トレーニングを始めたのは、昨年の8月頃からだと思いますが、きっかけは、やはりタイガー・ウッズやデビット・デュバルの影響によるものですか?
<丸山>そうじゃないんです。アメリカ通の友達が僕に“最近、USPGAの選手 は凄いトレーニングをやっているらしいよ”って唐突に言ったのがきっかけで す。その後、ヘルス・バスで偶然スチュワート・アップルビー選手と出くわしたんでトレーニングのことを尋ねてみたんです。そうしたら“勿論やっているよ”という答えだったんです。トレーニング・マシンの場所に行って、彼に教えてもらったメニューをさっそく試してみたんです。でも全然できないんですよ。それでカナダで1週間程時間ができたので、メニューをベースにトレーニングを試し
にやってみました。
<PB>結果はどうでした?
<丸山>いやー、全然できないんですよ、痛くて。クラブは振れなくなるし、USPGAの選手たちは本当にこんな凄いトレーニングをしているんだろうかって半信半疑でした。それで、友人にタイガーのことを聞いてみたんです。そしたら、週に6回トレーニングしているって言うんですよ。呆然としましたね。それで僕は週に6回は無理だから、週に4回にしようと、トレーニングを始めました。それはもう苦しかったですよ。
<PB>トレーニングはどれくらいの量をこなすんですか?
<丸山>時間的には毎回2時間半位です。
<PB>それは全部筋力トレーニングにですか?
<丸山>本当は月火水木金とメニューを分けなければいけないんです。上半身と下半身の日と。そんな時間的な余裕はありませんでしたから、僕はフルコースを週4日間やってたんです。もう終わったあとはくたくたでした。
<PB>どれくらいのウェイトを持ち上げてたんですか?
<丸山>いや徐々に重量はアップしていったのですが、僕が始めた頃はベンチプレスが30kgからでした。最初は10回上げるのが背一杯でした。30kgといえば米袋ひとつの重量ですよ。俺ってこんなに力がなかったのか、と思いましたね。あんなの普通だったら簡単に持ち上げられましたよ。やはりベンチプレスだと、総合的な筋力が必要なんです。今は70kgまで上げてます。レッグプレスで200kg近くまでも可能になりました。

Back to top

<PB>今のレベルはもうUSPGAの選手と同等なのですか?
<丸山>いやどうなんでしょうか。タイガーはトレーニングを始めた時にすでにベンチプレスで80kgは上げていたようだから。今では多分、120kgは持ち上げているんじゃないですか。
<PB>トレーニングの成果はどうですか。色々と書かれていたようですけど…。
<丸山>昔はゴルファーは上体を鍛えてはいけないとよく言われていましたが、今では上体が鍛えられていないと4日間振りきれない、というのが定説です。タイガーのように4日間ビュンビュン振り回すには、やはり鍛えられた肉体があって初めて可能なんです。僕はトレーニングのおかげで故障も少なくなりました。また、アメリカの深いラフからもウッドで打てるようになりました。昔はラフに入ると9番アイアンで出すのが背一杯でしたが、今では7
番ぐらいでもライが良け れば打っています。やはり自分の力の変化を感じますね。ドラバーの飛距離はあまり変わりませんが、芯を食った時とそうでない時では15ヤードは飛距離がのびています。
<PB>それは大きい変化ですね。
<丸山>学生時代は訳も解らずビュンビュン振り回して飛ばしていましたが、今は安定したスウィングで、あっ気持ち良く当たったと感じた時は軽く310ヤード位は飛んでいます。トレーニングをする以前はなかなか300ヤードは飛びませんで した。だから、アメリカの300ヤードは長いなーといつも思っていました。それ と、コントロール・ショットも飛ぶようになりました。僕はあまりたたかない方なんで、フェード系のボールが好きなんです。以前はコントロールしたフェード だと250ヤードが平均的だったのが、今は265−270ヤード位になっています。アイアンも半クラブは飛んでいます。
<PB>やはりトレーニング効果は大きかったんですね。
<丸山>そうです。そういえば以前プレジデント・カップに出場した時、タイガーのお父さんと話したことがあるんです。その時“タイガーはもうちょっと時間がかかるんだよ”と訳の解らないことを言ったことがあるんです。要するに、トレーニングを初めてまだ一年しか経っていなかった頃なんですね。その時”来年の夏ぐらいからタイガーは恐ろしく強くなるよ。あともうちょっとで体ができるんだ”とも言うんです。何言ってるんだろう、とその時は意味不明だったんでが、昨年の夏頃からタイガーの連勝が始まったんです。今になってやっと、ああ、ト レーニングを始めて、体のバランスが壊れて、それが整うのに後半年は必要だ、と言いたかったのだ、と理解できたんです。僕はトレーニングを始めたのが昨年の8月ですから、タイガーのことを考えれば、後一年位は必要だと思います。
<PB>すると来年の今ごろはまた違った展開がみられることになりますね。
<丸山>可能性は大ですね。トレーニングをした後はいまだに筋肉痛でバックスウィングが取れない時がありますが、以前に比べればそんな傾向はどんどん薄らいで来ています。始めたころは、痛くてタバコに火を付けるのも辛くてできませんでした。そんな状態でゴルフをしなければなりませんでしたから、酷いときは鎮痛剤を飲んでプレイをしていました。
<PB>今はどれくらいの仕上がりなんですか?
<丸山>まだまだ半分ぐらいのできです。弱い筋肉もたくさんあるので。今なら80kgのバーベルを持ち上げた次の日でもボールをしっかり打てますから、違いは歴然としていますけれど…。始めの頃は30kgのバーベルを3セットやっただけで、次の日はボールが全然当たりませんでしたから。面白いもので、力が付けば付くほどいきなり飛距離が落ちるんですよ。あの頃は、正直言って全くボールが飛ばなかったです。卑しくてね、僕の捨てセリフは”半年後をみてろよ!”でした。
<PB>タイガーも一時期勝てない時がありましたが、同じような言葉をメディア関係の人に言っていたように思います。
<丸山>僕も、だから本当に楽しくできるようになるのは一年後じゃないかと思います。自分のイメージでは一年後は160kgを軽く上げているように思うんです。これから35歳までが一番体ができるんじゃないかと、期待してるんです。体がある程度出来上がれば、トレーニング方法を変えたりして、30代の肉体を40代でもキープして、息の長い選手になれると思うんです。そんなことを言っても、いま、悔しいことはたくさんありますよ。ドライバーも筋肉痛でピューンなんて曲 がったりすると“やっぱり昨日トレーニングしなかった方がよかったかな”なんてことも日常茶飯事ですよ。でも一年後、二年後に俺の努力が実れば“やってて よかった”ということになるでしょう。ギャラリーはそんなことは知りませんから、Maruyamaはたいしたことがない、とアメリカで思われてるかも知れませんね。心の中では“今にみてろよ、そのうち丸山はビックな男になったなと思わせてやるからな”なんて思いながらスマイルして左の池にボールを入れたりして(笑)。やはり最初は悔しい思いをしながら成長するんじゃないですか。だからシード権を確保できたのは最大の喜びでしたね。
<PB>シード権があればトレーニングを含めて、マイペースでトーナメントを戦えますからね。
<丸山>現在は、昨年の日本での半年を思えば天国ですよ。昨年はブリジストン・オープンで優勝したのである程度は酬われましたが、その前までは悲しかったで すよ。トレーニングに関してもめちゃくちゃ書かれましたから。ほんと、カシオ・オープンの時は“あっ今日は天気が悪いな”て言って空を見ただけで首がつ ったんです。担架で病院に運ばれて、試合を棄権しました。朝練習が終って体が 暖まっているのにですよ。医師の話だと“びっくり首”状態だったらしいんで す。あの時、僕は100kg位のバーベルをショルダーに背負ってスクワットをしていましたから、それが原因で頚椎の神経に触れて、疲れがたまっていたことも災いし、少し首の付け根が陥没したのが原因らしいです。今だから言えることですが、“トレーニング失敗”なんて散々メディアに書かれた時は気分悪かったですね。
<PB>筋力や飛距離だけでなく、肉体的にもバランスがとれてきたようなのですが…。
<丸山>肩幅が3cmは大きくなりましたね。胸囲は僕が一度体を絞った時が104 cmで張って106cmしかなかったのですが、今は110cm位はあります。
<PB>素晴らしい変化ですね。トレーニング話は後を断たないのですが、日本のファンのためにもアメリカでの優勝の感触について話して頂けますか?
<丸山>感触というのではないのですが、もう原因は解っています。
<PB>それは何ですか?
<丸山>プレッシャーですね。
<PB>丸山選手はプレッシャーに強い感じですけど…。
<丸山>日本にいる時は、自分でもそう思っていました。正直言って、日本での最終組と雰囲気が違うんです。本当に武者震いするほどの緊張感なんです。あの緊張感はUSPGAの最終組でプレイして経験しない限りは解らないものなのです。専門家に“君はそうゆう時にこう考えなさい”とメンタル・トレーニングを受けても、あの状況では何も考えられませんね。メンタル・トレーニングは僕には向いていないのかも知れません。最終日の最終組の1番ティで自分のイメージ
通りに体が動くようになれば、勝てるチャンスはあると思います。そのためには上位に食い込んで、何回も何回も最終組でプレイをして苦い経験をしながら慣れるしかないと思います。
<PB>タイガーが“Maruyamaは調子に乗ると、凄い爆発力のあるプレイヤーだ”とコメントしていましたが…。
<丸山>そうですか。確かに僕はその時によって見違えるようなパワーを出せる時があるようです。アメリカで試合に出ていれば、必ず年間に何回かはそんな時が来ると、信じています。ビュイックで2位なんった時が絶好調だったとは思って
いません。僕の絶好調の時は、あんなものじゃありません。本当に絶好調の時は周囲が見えなくなって、知らない間に64とか66とか出てますから…。楽しみなのは今年の8月以降の試合です。トレーニングを始めて一年になり、ここまでやったんだという、安心感が出て来て、試合に良く作用してくれるように思うのです。
<PB>夏以降は要注意ということですね。
<丸山>試合の統計を取ったら、良い成績をあげているのは、暑い場所ばかりなんです。最近やはり寒いと体のまわりが悪くなってきたというのは、昔と違って脂 肪分より筋肉質になっているから、寒いとボールの飛びも悪いみたいです。
<PB>レギュラー・ツアーでの優勝は勿論ですが、メジャーに関してはどうですか?
<丸山>さっきのプレッシャーの問題と同じですが、慣れじゃないですか。そうすれば全く手に負えなかったコースや試合でも、可能性が出てくると思います。
<PB>今年のマスターズは3回目でしたが、どうでした?
<丸山>全く何が何だか解らなかったですね(笑)。今、冷静に考えてみると、ジャック・ニクラウスにあのゴルフができて、どうして自分はできないのだろう、という気になりますね。グリーンズボローに来ても、今の彼では75は切れないと思うんですよ。でも、何でマスターズだとあのスコアが出ちゃうんですか。ドラ ール・オープンに一緒に出たときもジャックは80近くも打っているのに、オーガ スタだと別人ですから。あそこは特別なんですよ。何かを知っていないと駄目なんですね。きっとそれがメジャーなのかも知れませんね。
<PB>経験と慣れというさっきのテーマに戻るんですが、アメリカに住むということは、やはりその辺を意識してのことですか?
<丸山>昔なんか、一カ月もアメリカいれませんでしたよ。もう無性に帰りたいんです。別に食事がいやじゃないんです。雰囲気がいやだったんです。
<PB>どんな雰囲気が?
<丸山>日本では丸山茂樹といえば皆優しかったですから。アメリカだとホテルが 取れてないとか、荷物の重量オーバーだとか、ストレスを感じることが多すぎました。でもアメリカも環境に慣れてくると快適なんです。前は買い物ひとつできませんでしたが、今では自分で全部できるようになりました。複雑な会話はまだまだですが、ヒアリングができるようになったので、ロッカールームでも選手たちに気軽に声をかけれるようになりました。
<PB>何がきっかけでそう180度変化してしまったのですか?
<丸山>アメリカでの生活に多少たりとも慣れて、不自由がなくなったからじゃな いですか。今はずっとアメリカで生活したい気持ちですよ。日本ほど知られてい ないから、周囲の人のことを気にしないで生活できますからね。短パン、Tシャツ、OKみたいな、プールにいてもジャグジーにいても僕のことを誰も束縛しないし。こんな自由な国はないなあ、て感じます(笑)。
<PB>アメリカが気に入ってしまった様ですが、誰か特別に仲の良い選手がいますか?
<丸山>特別には意識していませんが、フランコとかワツッとか日本のツアーにいた選手が仲良くしてくれますが、特別に仲が良い選手はいません。強いて言えば、下級選手より上級選手の方が仲がいいかもしれません。昔から顔なじみということで。あとは、インターナショナル・チームの選手、プライスさんなんかが良くしてくれます。
<PB>丸山選手はジュニアーの育成にも興味があると聞いていますが、どんな構想があるのですか?
<丸山>将来、できれば日本のゴルファーの中からメジャーを制覇できる実力の選手をつくりたいというのが夢ですね。僕もジュニアーの頃からゴルフをやっていましたから、自分が60歳、70歳になった時に、自分が育てた子供たちがアメリカに夢を持って行くようになって、どんどん活躍する、考えただけで楽しいと思いますね。そんな可能性のためにもジュニアー教育に力を入れたいと考えていま す。
<PB>いつ頃からそんなふうに考えるようになったんですか?

<丸山>プレジデント・カップに初めて出たとき、関係者から“あなたこのギャラ をどこに寄付しますか?”と尋ねられたんです。ギャラってくれるんじゃないの、て思ったんですが、他の選手は殆どが自分のファウンデーションを持っているんですよ。ニック・プライスにしてもタイガー・ウッズにしても、ジュニアー・ゴルフ育成何々基金みたいな…。“Mr.Maruyamaはどうしますか?”て聞 かれたとき、僕はない。はっきり言って、僕は恥ずかしかったですよ。結局ユニセフに寄付したんですが…。それで、そうか僕だってその気になれば日本のジュ ニアー・ゴルファー育成のためにひとはだ脱げるぞ、て気になったんです。日本では野球やサッカーが子供たちに人気ですが、ゴルフはまだまだですからね。
<PB>具体的には何か計画があるんですか?
<丸山>“丸山茂樹ジュニア・スポーツ・ファンデーション”を運営してジュニアーの育成をするつもりです。多分、完全な具体化には3年位は必要でしょが、日本の関係者にも協力してもらって、実現したいと思っています。アメリカではジュニアーのためにゴルフ場が協力的で、ジュニアーが10ドル以下でプレイできるコースがたくさんありますから。恵まれた環境ですよね。スポンサーもアメリカではジュニアー育成には意欲的ですからね…。
<PB>丸山選手のジュニアー時代はどんなゴルフ環境だったのですか?
<丸山>もう金持ちのお坊ちゃましか集まっていませんでしたよ。奨学金なんてありませんし、驚くようなお金持ちの息子ばかりでしたね。迎えに来る人といえ ば、ベンツとかジャガーとかケタ違いでしたよ。僕なんて普通の家庭の子供ですから、“すごいな、すごいな”の連呼でしたね。そういう部分じゃ日本のゴルファーにはハングリー精神が足りない気がします。ゴルフは高いからできない、という環境では育成は難しいですよ。だからそんな環境を打破するためにも、ゴルフ基金を設定して、良いゴルフ環境をつくりたいですね。
<PB>それでは最後に、丸山選手は3年後、いや5年後にはどんな選手生活を送 っていると思いますか?
<丸山>5年後ですか、アメリカでお馴染みの選手になっていたいですね。USPGAのツアーブックをよくみるんですけど、こっちの選手は大体ツアー2〜3年目ぐらいから強くなっているんですよね。なれたらいいな、て気持ちです。
<PB>USオープンが資格が取れなくても行くんですか?
<丸山>ええ、行きますよ。たとえ予選からでも、トライします。もう決めてますから。

Back to top

Copyright(C)2003 SHUEISHA CO.,LTD. All rights reserved.